こんにちは。手術室看護師みにぶたです。
手術室勤務の皆さん。手術室では針刺し事故が起こりやすいと知っていましたか?
針刺し事故は、手に傷ができるだけでなく感染症に罹患するリスクもあります。手術中は手袋を2枚装着していると思いますが、それだけでは完全に防ぐことは出来ません。なので普段から針刺し予防を行い、針刺し事故を起こさないように努めましょう。
今回の記事では、針刺し事故について詳しくお話ししていきます。
①針刺し事故とは
針刺し事故とは、医療従事者が患者さんの血液などが付着した針などによって外傷を受けることです。
外傷を受けると言うと、傷ができてしまうのが問題のように感じますが、実は傷そのものよりも血液などを介した感染症罹患が大きな問題となります。
手術室には、メスや縫合糸、開創器など鋭利なものが多いため、取り扱いに注意する必要があります。
手術につき始めの1年目さんは、特に針刺しを起こす可能性が高いので要注意です。
②どうして危険なのか
上記でもお話しましたが、針刺し事故で特に問題となるのは、実は傷そのものよりも血液などを介した感染です。
針刺しなどの血液曝露で血液を介して感染する代表的な血液媒介感染症としては下記が考えられます。
・HBV(B型肝炎)
・HCV(C型肝炎)
・HIV、AIDS (後天性免疫不全症候群)
・ATL(成人T細胞白血病)
・HTLV-1 (ヒトTリンパ好性ウイルス)
・梅毒
③原因
一般的な針刺し事故の主な原因は、リキャップです。なので、リキャップする際には、キャップを被せるのではなく片手法で行うようにして下さい。
上記でリキャップは一般的と紹介させて頂きました。それは何故かというと、手術室ではリキャップでの針刺し事故よりも、物の受け渡し時や縫合糸を持針器につけて準備する時に、針刺し事故を起こしやすいからです。
特に、緊急手術や出血など予想外の出来事が起こった時などに多く発生しています。
④対策方法
リキャップに関しては、針とキャップが直線的な位置関係になるリキャップは高確率で針刺し事故の原因となります。
なので、針にキャップを軽くかぶせてから、確実にリキャップを行う二段階リキャップ方法やキャップを平らな安全な場所に置いておき、そのキャップに針を入れてからリキャップを行う片手法、またはリキャップ専用の器具「リキャップデバイス」を使用した方法で行ってください。
また、物の受け渡し時は当たり前ですが相手と自分の手元を、しっかりと見て渡して下さい。
器械出しに慣れない頃は、渡す相手を見る余裕がなく、あまり見ずに渡してしまうことがあるかと思います。また、帰ってくる時も同様で見ずに受け取ってしまい、針刺し事故を起こす場面を何度も見ました。
もし、受け取りの際に話しかけられたら少し待って貰うように伝えるか、耳だけ傾けください。
ただ、先輩に対して耳だけで話を聞いてしまうと指導の対象となる可能性があるので、「少し待ってください」と伝えるのが1番良いかと思います。
私は1年目の頃に術野に集中するあまり、外回りの話を耳だけで聞いてしまい怒られた経験があります。ただ、正直に言いますと忙しい時に話しかけないでほしかった…とも思っています。
縫合糸を持針器につけて準備する時にも、針刺し事故を起こしやすいです。
私は練習の時に、手を切ってしまったことがありますが、あの時は感染リスクを知らなかったため、「手が痛いな」ぐらいの考えでしたが感染リスクを知ってからは気を引き締めて予防に努めようと思えるようになりました。
焦っている時はどうしてもミスが起こりやすい為、出来る限り落ち着いて対応することを心がけてください。
また、縫合糸を持針器に付ける技術は練習で向上し、急いでいても素早く出来るようになりますので空き時間に練習しておきましょう。私は毎日のように練習して慣れてからは、急いでも手を切らないようになりました。
手術室によっては持針器と針を持って帰れる所もあります。ただ、針の管理は気をつけてください。自宅では破棄せずに、必ず手術室へ返すようにしましょう。
⑤針刺し後の対応方法
針刺し事故が起こった際の、私が勤めている病院での対応方法についてお話していきます。
まず、針刺し事故が発生したら、責任者に報告し、直ちに傷口から血液を押し出すようにしながら水道水で洗浄、消毒用エタノールまたはヨードで消毒します。また、傷口がない場合にも同じ手順で洗浄、消毒します。
次に、手術前の術前検査で必ず感染症を検査していると思いますので、再確認してください。
患者さんの感染症について再確認し、感染のリスクが高いと判断されたら内服を使用します。
ちなみにですが、血液を介した感染症の中では、特にB型肝炎の感染力が強いとされていますので覚えておきましょう。
感染症によって対応方法が異なりますので、よく遭遇する感染症を例にあげて対応方法をお話していきます。
・B型肝炎の場合
B型肝炎では、HBeが感染の指標とされ、HBe抗原が陽性の場合は感染力は強く、HBe抗原が陰性の場合は感染力が弱いとされています。しかし、変異B型肝炎というものもありますので、残念なことにHBeだけでは判断出来ません。
針刺しをした本人のHBs抗体が陰性あるいは抗体価が低い場合は、48時間以内、遅くとも1週間以内に抗HBs人免疫グロブリンを注射し、それに加え、事故発生後7日以内、1ヶ月後、3ヶ月後の計3回、B型肝炎ワクチンを注射します。
ちなみに、HBs抗体が陽性の方は治療は必要ありません。
・C型肝炎の場合
C型肝炎では、感染を予防する有効なワクチン等の対策はありませんので、感染が確認された段階で治療を開始することになります。
なので、受傷後は定期的な肝機能検査やHCV抗体検査が必要となります。
・HIVの場合
HIVでは、針刺しでの感染の危険は0.3%と報告されており、針刺し後の予防内服で感染が約80%減少したとの報告があります。
HIVの治療は3~4種類の抗HIV薬を組み合わせて内服する多剤併用療法が基本となります。
HIV曝露後、予防薬服用の有無にかかわらず、曝露後3ヶ月目の検査結果が判明するまでの期間は感染回避のため必ず避妊をしてください。
⑥まとめ
今回の記事では、針刺し事故について詳しくお話しさせて頂きましたしたが、いかがだったでしょうか?
針刺し事故の予防のためには、すべての血液には感染可能性があることを認識して日頃から気をつけておくことが重要です。また、勤めている病院に針刺し事故マニュアルがあると思いますので、これを機会に確認してもらえると嬉しいです。
意外と針刺し事故は頻繁に起きていますので、自分は大丈夫だろうという考えは捨てて、普段から予防しておくことが大切です。
この記事をキッカケに、針刺し事故への理解が深まると嬉しいです。
以上、最後まで記事を読んでいただきありがとうございました!