皆さんは看護師と聞くと、どの様な仕事を思い浮かべますか?多くの人が病棟や、町のクリニックで働く看護師を思い浮かべると思います。でも実は、非常に少数派ではありますがオペ室に勤務する看護師もいて、オペ看、オペナースなんて呼ばれ方をしています。オペ室の看護師は人数も少ない為、あまりメジャーではありません。大学や専門学校で学ぶ事も殆どなく、調べたくても本やサイトに載っている情報は少ないので、オペ室に興味があったり、オペ室に入りたい!と思っている方は、情報の少なさに残念な思いをする事があるかと思います。ですので、その残念な思いを解消する為に、現役でオペ室に勤務している看護師としてオペ室看護師の情報について発信していきたいと思います。
今回の記事では、手術室で行なっている褥瘡の原因、対策ついて詳しくお話ししていきます。
①褥瘡とは
褥瘡とは、長時間の同一体位や寝たきりの状態などにより自分の体重で同じ部分(特に骨が突出している部分)を圧迫される事で、皮膚や皮下組織、筋肉への血流の悪化、滞りが起こり、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうことです。一般的には「床ずれ」とも呼ばれています。
②発生メカニズム
<3つの応力>
褥瘡には、外力が皮下組織内部に発生させた力(応力)が関係していると考えられており、①圧迫応力、②引っ張り応力、③せん断応力の3つの応力があります。
布団やベッドのマットレス、車いすや補助具、窮屈な寝衣などにより同一部位に長時間外から圧迫を受けると、身体を押し潰すようにかかる圧迫応力、身体に力がかかり左右に引っ張ろうとする引っ張り応力、滑らないように摩擦の力がかかるせん断応力の影響で、血管が縮小し虚血状態が生じることによって、皮膚や皮下組織、筋肉などに酸素や栄養が行きわたらなくなり、阻血状態となり褥瘡発生に繋がると考えられています。
<4つの機序>
褥瘡は単なる阻血状態だけでなく、①阻血性障害、②再灌流障害、③リンパ系機能障害、④機械的変形の4つの機序が複合的に関与するものと考えられています。
阻血性障害では、外力によって血管が閉塞して組織に血が流れない状態である阻血壊死に陥ります。
再灌流障害では、一度途絶えてしまった血流再開に伴い生体炎症反応が起こり、単なる阻血状態よりも強い組織障害が生じるため、褥瘡の重症化の要因であると考えられています。
リンパ系機能障害は、圧力が加わる事でリンパのうっ帯が起こり、老廃物などの蓄積から組織障害を起こします。
機械的変形では、外力が身体に直接作用することで、細胞のアポトーシス、細胞外マトリックスの配向性に変化が起こり組織障害へと繋がります。
③好発部位
好発部位とは病変が起こりやすい部位で、褥瘡は皮下脂肪や筋肉が少なく骨が突出し、体圧が集中する部位に多く発生します。
<仰臥位>
後頭部、肩甲骨部、肘頭部、仙骨部、踵骨部
<側臥位>
耳介部、肩峰突起部、肋骨部、腸骨部、大転子部、膝関節顆部、踵骨部(外顆部、内顆部)
パークベンチ体位では頭部と一部の上半身が手術台の外で把持されるため、側臥位よりも褥瘡リスクが高くなります。
<腹臥位>
耳介部、肩峰突起部、乳房(女性)、性器(男性)、膝関節部、趾部
<砕石位>
仙骨部
趾とは、足の指のことで1文字では「あしゆび」と読みます。音読みは、「指」と同じく「シ」です。
④オペ室での褥瘡対策
褥瘡は寝たきりの人に多いため、病棟だけの問題でオペ室は関係ないと思っていませんか?
手術は早ければ30分で終了するものもありますが、長時間手術では8時間以上のものも多くあります。手術室で使用されているベッド(手術台)では、体圧分散に優れ、安定性の良い硬度に調整された高反発マットが使用されている事が多いですが長時間の手術、褥瘡リスクの高い患者さんの場合は褥瘡が発生する可能性がありますので注意しておきましょう。
手術室での褥瘡予防は病棟での標準対策とは異なる面が多々あります。病棟では、褥瘡対策としてエアマットを使用していると思いますが手術室では体位固定が不安定となり落下の可能性があるため、使用しない事が多いかと思います。また、手術中は体位変換も困難なため、体圧分散や体位変換時の摩擦、ずれへの対策が重要となってきます。また、近年ではMicroclimate(皮膚局所の温度・湿度)も褥瘡発生リスクに関与していると考えられており、発汗は適切に体温を調節することで抑制出来る可能性があるため、体温管理も重要となってきます。
<体圧分散>
体圧分散用具の使用目的は、局所に加わる圧力を分散し、同一部位への長時間の圧迫を減少させることです。私が勤務している病院では、主に陰圧式固定器具(マジックベッド)や低反発ウレタンフォーム(ソフトナース)を使用し局所的圧迫の減少に努めています。
<摩擦、ずれ>
摩擦、ずれを低減し皮膚を保護するためには、高すべり性スキンパッド(リモイスパッド)を使用し、体位を固定させるためには支持器を使用します。支持器は点で支えるため単体での使用は褥瘡の原因となりますので、面で支えるマジックベッド、ソフトナースなどと併用して下さい。
<体温管理>
体温上昇によって発汗が促されると皮膚湿潤が引き起こされ、摩擦やずれの原因となり褥瘡発生リスクを高めると考えられています。対策としては、高体温時には温風式加温装置の温度を下げる、室温設定を変更する、掛け物を減らすなどがあります。温風式加温装置をoffにしてしまうと、体温が下がりすぎてしまいシバリングの原因になる可能性もあるので、offにはせずに温度で調節するようにして下さい。
⑤まとめ
手術室の褥瘡対策について詳しく説明させて頂きましたがいかがだったでしょうか?手術室では、長時間の同一体位、体位変換の困難さから褥瘡発生リスクは高いのにも関わらず、意識されていない事が多いです。私も1年生の頃はあまり意識していなかったのですが、10時間近くの手術の外回りを担当し、Shea分類の1度である「圧迫を除いても白く消退しない発赤」を引き起こしてから褥瘡に対しての意識が変わりました。褥瘡は発生してしまうと、軽症の状態でも完治までに時間がかかってしまう場合もあるので、私の様に引き起こしてから意識するのではなく、引き起こす前から意識して積極的に対策して頂けたらと思います。
全ての褥瘡を防げる訳ではありまんが、意識しておく事で少しでも防ぐことが出来たら良いなと思っています。