皆さんは看護師と聞くと、どの様な仕事を思い浮かべますか?多くの人が病棟や、町のクリニックで働く看護師を思い浮かべると思います。でも実は、非常に少数派ではありますがオペ室に勤務する看護師もいて、オペ看、オペナースなんて呼ばれ方をしています。オペ室の看護師は人数も少ない為、あまりメジャーではありません。大学や専門学校で学ぶ事も殆どなく、調べたくても本やサイトに載っている情報は少ないので、オペ室に興味があったり、オペ室に入りたい!と思っている方は、情報の少なさに残念な思いをする事があるかと思います。ですので、その残念な思いを解消する為に、現役でオペ室に勤務している看護師としてオペ室看護師の情報について発信していきたいと思います。
今回の記事では、稀な現象ではないのに知名度が低いイソジン焼けについて詳しくお話ししていきます。
①イソジン(ポビドンヨード)とは
ポビドンヨードを有効成分とする外用殺菌消毒薬で、広範囲の微生物に対して殺菌作用があります。グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌のほか、真菌や一部のウイルスにも有効と言われています。刺激性が弱く皮膚や粘膜の消毒に適しているため、外用消毒で頻繁に使用されています。ただし、ヨウ素に対し過敏症のあるヨードアレルギーの方には使用しないでください。
イソジンは十分に乾燥させないと、期待される消毒効果が発揮されません。しかし、イソジンはエタノールと比較すると乾燥に時間がかかり、量にもよりますが1〜2分を必要とするため、しっかり乾燥してから手術や処置を行うようにしましょう。
私が努めている病院では、ヨードアレルギーがある場合はクロルヘキシジン製剤を使用しています。
②イソジン焼けとは
イソジン焼けとは、イソジンが大量かつ長時間皮膚に接触することにより接触皮膚炎、皮膚変色を引き起こすことで、化学熱傷の1つでもあります。
手術後にハイポガーゼでイソジンを拭き取っても、色素が残っている場合は皮膚にイソジンの色素が沈着してしまい、イソジン焼けが発生した可能性があります。手術室では稀な現象ではないのですが、知名度が低いのか謎の発赤や色素沈着として扱われている場面を多々見ます。
大量に皮膚に接触していた場合は長時間でなくともイソジン焼けを引き起こす可能性があります。手術時間30分と短時間であったにも関わらず、身体の下に敷いてあったタオルにイソジンが染み込んでおり、軽度ではありましたがイソジン焼けを引き起こした経験があります。その時私は、イソジン焼けという言葉を知らずただのイソジンによる沈着色素と軽く考えていたのですが、先輩から化学熱傷の1つであると教えて頂いて考えが変わりました。
昔はヨードチンキが使用されていましたが刺激が強いといった欠点があり、最近ではポビドンヨード(イソジン)などの低刺激の消毒製品が主流となりました。
③イソジン焼けは何故なるの?
人間の皮膚表面の角質層には、肌の保護的役割があり、この機能により皮膚は様々な刺激から守られています。しかし、この機能の許容範囲を超えた強い刺激に触れてしまうと炎症が引き起こされ、接触皮膚炎が発生します。イソジン焼けも分類される刺激性接触皮膚炎では、アレルギーではなく原因物質自体がもつ刺激によって引き起こされるため誰にでも起こる可能性があります。なので、イソジンで消毒する際には量や時間に気を付けておきましょう。
手術室ではアレルギーを除き、刺激があるからイソジンを使わないという選択肢はない為、イソジン焼けにならないように最善を尽くしましょう。
④対策
①量に注意する
量が多くなればなるほど乾燥し辛くなり、皮膚に接触する時間が延長されますので必要最低限の量を使用しましょう。
看護師はイソジンの量を最小限にしたいのにも関わらず、「汁だくで」と言いイソジンの量を増やしてくる医者もいます。その際には、イソジン焼けのリスクを説明したり、イソジン焼けを引き起こした事例があった事を伝えますが、あまり納得してくれない印象があります。自分で言っても納得してもらえずイソジン焼けを引き起こしている場合は、主任さんや課長さんに伝えて貰っても良いかもしれません。
私は床に垂れるほどの量で消毒する医者には、「消毒したいです」と伝えて看護師側で消毒したりしています。
②消毒部以外にイソジンが溜まらないように、消毒部の下にタオルや吸水シーツを敷く
イソジンが溜まってしまうと乾燥せず皮膚に接触する時間が延長されますので、溜まらないようにタオルや吸水シーツなどを使用し工夫しましょう。また、手術時に体の下のタオルや吸水シーツ、ソフトナースなどに溜まった状態や、染み込んだ状態では長時間皮膚とイソジンが接触してしまうため、余分な液があれば拭き取るようにしましょう。ただ、清潔部分には触れないように注意して下さい。
私はタオルと吸水シーツで、どちらの方がイソジン焼けを引き起こしにくいかを試した事がありますが、有意な差はなかったように思います。どちらを使用するかよりも、適量であったか、溜まっていた部分の有無などの方がイソジン焼け発生に関係していると私は思っています。
⑤まとめ
イソジン焼けについて詳しく説明させて頂きましたがいかがだったでしょうか?手術室では稀な現象ではないのですが、知名度が低いように感じるイソジン焼け。知らない人も多いのではないかと思い記事にさせて頂きました。正確な数値は見つからなかったので体感のお話しですが、心臓血管外科の手術室では特によく見かける気がします。やはり、手術時時間が長い事が影響しているのではないかと私は考えています。手術室以外でも、急性期病棟では見かける機会も多いと思いますので、是非知って頂けたらと思います。